「パレオゲノム解析用人骨サンプルの選定に関する報告書(その3)」(中村誠一)- 2023.05.27

更新日:2023.05.27


はじめに

 2022 年度から開始した科学研究費補助金基盤研究(S)課題番号22H04928「パレオゲノミクスによるマヤ文明コパン王朝のダイナミクス解明」を推進する目的で、2023 年2 月にも、コパンの研究センターにおいて、PROARCO1発掘人骨からの分析用サンプルの選定を継続した。今回は、年度末にあたり時間的に限られていたため、PROARCO の経験豊富な助手一人が選定し、研究代表者の中村が渡航した際に引き渡しを受けた。選定されたサンプルは、ホンジュラス国立人類学歴史学研究所長の許可のもと日本へ持ち帰られ、金沢大学のラボで分析するべく研究協力者の覚張に引き渡された。


1 2003年から2019年まで日本政府からのノンプロジェクト無償資金協力のホンジュラス側見返り資金を原資として断続的に7 シーズンにわたって実施されたコパン考古学プロジェクトのスペイン語略称。全期間にわたって筆者が指揮し、180 近い埋葬を発掘調査・回収した。今回のサンプルは、その最後の段階の複数の埋葬からのものである。金沢大学からこれまでに4 巻の報告書が刊行されている。


選定期間

 中村が現地渡航する前の1 月の最終週にCRIA2で6 サンプルが選定された。いずれもPROARCO の2016~2017 年シーズンのサンプルである。


2 Centro Regional de Investigación Arqueológica すなわち、ホンジュラス国立人類学歴史学研究所附属コパン地方考古学調査研究センターのスペイン語略。コパンを調査する各国の大学調査団が、ホンジュラス国立人類学歴史学研究所の許可のもと、その中に拠点を構えている。


選定者

 Hernando Guerra, Melvin Fuentes(IHAH 代表)


選定部位と選定サンプル数

 過去、2回の選定と同様、側頭骨錐体部だけをターゲットとし目視による確認において選定した。その部分が残っていないと考えられる埋葬は選定から除外している。今回の対象となった埋葬数は、PROARCO6埋葬のみで、それらの埋葬から分析用サンプルを取得している。


選定と分析の際の注意点

 選定にあたった助手二人は骨学専門家から訓練を受けているが、残存状況として人骨の該当部がすでに破片状になって取り上げられている埋葬の場合、一部のサンプルは頭蓋骨ではあるが該当部位のものではない可能性がある。

 また、頭蓋骨全体が形質人類学者により復元されているものや、土のブロックとして周辺土とともにそのまま取り上げられているものは、今回も選定対象とはしなかった。これらは、2023 年度にサンプル採取を行う計画である。


注目すべき埋葬サンプルについて

 今回の埋葬サンプルの中で、注目すべきサンプルとしては、建造物9L-110 出土の2つの埋葬(埋葬176 と177)がある。これらは、2017 年11 月に発掘された。発掘地点の最下層からは、コパンの土器編年で、Acbi I 期(400~550 年)に位置づけられる土器片が出土しているが、層位の同じ隣接する埋葬175 が、いわゆる黒色系コパドールないしグァルポパ多彩色土器を副葬品として伴うためAcbi II 期の7 世紀と考えられる。埋葬176 と埋葬177 は、大人(177)と子供(176)の埋葬で一緒に埋葬されている。こうした点から考古学的には「親子」関係が推定されるが、ゲノム解析により明らかになることが期待される。