研究代表者

 

NAKAMURA Seiichi
中村 誠一(なかむら せいいち)
- NAKAMURA Seiichi -

所属:公立小松大学, 大学院サステイナブルシステム科学研究科・特別招聘教授 / 次世代考古学研究センター長
研究者番号:10261249

これまでの研究概要

 1983年に初めてホンジュラスへ渡り、マヤ文明の現地調査を開始しました。当時は、国際協力事業団(現・国際協力機構:JICA)の青年海外協力隊員(考古学分野)としての渡航で、1年の準備期間ののち、世界遺産「コパンのマヤ遺跡」から直線距離で50キロほどのところにあるラ・エントラーダというコパンの周縁地域の考古学調査プロジェクトを開始しました。それから16年間は、JICA派遣や民間財団の資金によって、エル・プエンテ遺跡、ロス・イゴス遺跡、ラス・ピラス遺跡等、ラ・エントラーダ地域の主要遺跡の調査に没頭し、歴史上、誰も調査したことのないマヤ文明の周縁地で次々と多様性に富んだ新しい遺跡を発見できる周縁考古学の面白さに取りつかれていました。

 転機が訪れたのは、1999年にホンジュラス政府からコパン遺跡保存統合計画のディレクターに任命されてからです。この時から現在まで24年間、ホンジュラスでは世界遺産「コパンのマヤ遺跡」の調査研究に集中してきました。2002年頃までの調査研究は、『マヤ文明を掘る-コパン王国の物語』(NHKブックス1086)にまとめられていますのでご覧ください。

 コパンでは、2000年の10J-45「王墓」、2003年から2004年の「王家の子供」の埋葬墓、2016年から2017年の集団埋葬墓と3回、コパン考古学史に残る大きな発見をしています。いずれも、欧米の主要な雑誌(Antiquity, National Geographic, Time等)や新聞・ニュース(BBC, CNN, NHK等)に取り上げられました。この3つの重要埋葬は、ここ数年における副葬土器の比較研究と集中的な放射性炭素年代測定により、ほぼ同時期の埋葬群で、定説によるコパン王朝創始時期(5世紀前半)の埋葬であることが示唆されています。とすれば、10J-45「王墓」被葬者はいったい誰なのか、同位体分析ではペテン低地からの外来者であるといわれていますが、その正体の解明やこれら3つの埋葬群の相互関係の解明が、コパン王朝史前半の研究における重要な課題として浮上しています。

 一方、最盛期マヤ文明の中心地と目されるティカル遺跡(グアテマラの世界複合遺産「ティカル国立公園」)でも同時並行的に考古学調査を続けてきました。ティカルとコパンの繫がりは、20世紀前半から様々なマヤ研究者によって指摘されていました。ティカルでは、グアテマラ側の意向を汲み、都市の中心部にある「北のアクロポリス」という建築複合の保存を中心としたプロジェクトに協力してきました。ここは、1956年から1969年にかけて、アメリカのペンシルバニア大学博物館が、ティカルで空前絶後の一大プロジェクトを実施した時の主要調査区域で、修復された建造物が観光目的で露出されてしまったため、その後の浸食・風化により、著しく建造物が痛んでおり新たな保存作業が必要とされていました。ペンシルバニア・ティカルプロジェクトの際には、北のアクロポリスの正面(南側)に位置する4つの神殿のうち、5D-32から5D-34まで3つの建造物が発掘され、すべての神殿からそれぞれ王墓が発見されたため、ここは、古典期前期におけるティカル王の集団埋葬地(ネクロポリス)であったと考えられています。現在は、北のアクロポリスの正面(南西)に位置する4つ目の神殿で、ペンシルバニア大学博物館チームが、ほとんど手を付けなかった5D-35(35号神殿)と命名された、広場からの高さが10メートル程度の神殿の修復補強およびそれに先立つ小規模な発掘調査をティカル国立公園と合同で実施しています。小規模な発掘調査であるにもかかわらず、2022年度の発掘調査においては、ティカルでは1994年以来28年ぶりとなる石碑の断片や数多くの黒曜石製およびチャート製のエキセントリックと呼ばれる石器群を持つ重要な奉納遺構を発見しています。そのため、この神殿からも「王墓」が見つかる可能性は高いと考えています。

 マヤ文明研究の定説では、ティカル王朝は、コパン王朝の出身地であると考えられており、コパンで発見してきたコパン王朝創始時期の重要な考古学的資料と同時期のティカルの考古学的資料の詳細な比較研究も今後の重要な課題となっています。

本研究との関連性

 私は、その研究人生のほとんどを現地に住み着いて調査研究を行ってきました。日本に住むようになったのは金沢大学へ移ってからのここ10年くらいの期間にすぎません。そのため、ここ40年間のマヤ文明研究の最前線に身を置くことができ、その研究革新を自ら目撃・体験することができました。

 マヤ文明研究には、これまで2つの大きな革新的な時期がありました。まずは何と言っても1980年代半ばから始まったコパンにおける革命的な碑文解読でしょう。その萌芽は1970年代後半のパレンケで見られていましたが、Linda Schele, Nikolai Grube, David Stuartらが、目の前で次々と新しい解読を行って歴史を明らかにしていくあの当時の興奮と時代のうねりは忘れることができません。

 その次は、2000年代になってからの同位体化学の進展でしょう。ストロンチウムと酸素の安定同位体比により、移民と在地民の区別ができるようになり、碑文解読から再構成された歴史に、最新科学が生み出す新たな側面が加わりました。また、それと同時に、碑文解読の内容と同位体分析の結果との間に齟齬がみられる場合もあり、新たな課題をマヤ文明研究者に突き付けた時期であったと思います。

 こういったうねりの中で、現地における私のプロジェクトは常に動いており、これまで発見してきた新遺跡数も多いですが、回収した考古学の基礎的一次資料(副葬品としての完形土器、石器、ヒスイ製品、貝製品等の装飾品、石造彫刻品、埋葬人骨等)には膨大な数があります。これまでコパンおよびその周縁地域で発見・回収した埋葬数はゆうに250を超しており、その数は年々増えています。そこで第3番目の研究革新として今後大きな注目を集めるのが、パレオゲノミクスだと考えています。

 つい最近まで、マヤ文明が栄えた地のような亜熱帯の湿潤な気候・土壌にある遺跡環境では、そこから回収された古人骨からのヒト由来の核DNAの抽出と大量のゲノム情報の解析は不可能であると考えられてきました。しかし、本研究の若手研究協力者(覚張)と若手研究分担者(中込)は、その難題に果敢に挑戦して新たな研究地平を切り拓こうとしています。研究代表者(中村)とその他の研究分担者(伊藤、市川)がこれまでコパンおよびその周辺の地域で発掘調査を通して回収してきた出土地点、出土状況、年代の確かな300を超す他にない古人骨の一次資料と若手ゲノム研究者の技術革新により、これまでになかった研究ができると確信しています。

本研究への抱負

 考古学的な基礎情報(出土地点、出土状況、相対年代+理化学年代)が明確な一次資料を大量にもっているのがこの研究チームの強みの一つです。世界的にも著名なマヤ考古学者(市川、伊藤)と新進気鋭の若手ゲノム研究者(中込・覚張)を研究分担者・研究協力者に迎えて、本研究がマヤ文明研究の第3の革新を起こす先駆的研究となることを目指したいと思います。

科学研究費補助金

研究課題名:パレオゲノミクスによるマヤ文明コパン王朝のダイナミクス解明
課題番号 :22H04928
研究期間 :2022-04-27 – 2027-03-31
科学研究費助成事業データベースサイト (https://kaken.nii.ac.jp/grant/KAKENHI-PROJECT-22H04928/

主な著書・論文
  • Nakamura, Seiichi 2023, ”Reseña del Proyecto Arqueológico La Entrada (Primera Fase 1984-1989, Segunda Fase 1990-1994)”, In Seiichi Nakamura, Takuro Adachi and Masahiro Ogawa (eds.), Japanese Contributions to the Studies of Mesoamerican Civilization(Studies in Ancient Civilizations 1), Institute for the Study of Ancient Civilizations and Cultural Resources, pp. 1-7.
  • Nakamura, Seiichi, Takuro Adachi and Masahiro Ogawa 2023, Japanese Contributions to the Studies of Mesoamerican Civilization(Studies in Ancient Civilizations 1), Institute for the Study of Ancient Civilizations and Cultural Resources.
  • 森谷公俊、鶴間和幸、中村誠一(2022)『古代遺跡大図鑑(Newton大図鑑シリーズ)』ニュートンプレス。
  • Nakamura, Seiichi 2021 “PROARCO II (Proyecto Arqueológico Copán, Segunda Fase) : Objetivos, Justificación, y Resultados Preliminares” (PROARCO II, コパン考古学プロジェクト第二フェーズ:目的、実施意義、予備成果), Kanazawa Cultural Resource Studies , Vol. 28.(スペイン語と英語の2ヵ国語で執筆)
  • 中村誠一(2021)「マヤ文明コパン遺跡における古典期王権に関する諸問題」『北陸と世界の考古学:日本考古学協会金沢大会資料集』319~322頁。
  • 中村誠一(2021)『ラテンアメリカ文化事典』(共著/2-20「文化遺産の活用と地域社会」17-5「日本人による古代アメリカの探求」を執筆)、丸善出版。
  • Suzuki, Shintaro, Seiichi Nakamura and Douglas Price 2020, “Isotopic proveniencing at Classic Copan and in the southern periphery of the Maya Area: A new perspective on multi-ethnic society”, Journal of Anthropological Archaeology Vol.60, pp.1-17.
  • Nakamura, Seiichi (2020), “International cooperation project utilizing archaeological sites in Central America: Case studies in Guatemala and Honduras”. In Cultural Heritage and SDGs II – What is told now in the world? , pp. 32-45. Japan Consortium for International Cooperation in Cultural Heritage.
  • Nakamura, Seiichi 2020, “Proyecto Arqueológico Copán (PROARCO): Investigaciones Arqueológicas en los Grupos 9L-22 y 9L-23, Copán, Honduras, Vol.3”(コパン考古学プロジェクトPROARCO:グループ 9L-22, 9L-23における考古学調査⑶), Kanazawa Cultural Resource Studies , Vol. 25.(スペイン語と英語の2ヵ国語で執筆)

 


 

研究分担者

 

NAKAGOME Shigeki
中込 滋樹(なかごめ しげき)
- NAKAGOME Shigeki -

所属:金沢大学, 古代文明・文化資源学研究所, 客員准教授
   ダブリン大学トリニティカレッジ, 医学部, 助教
研究者番号:40625208

これまでの研究概要

 私は集団遺伝学を専門とし、ゲノムデータをもとに人類集団の複雑な歴史を紐解く研究を進めてきました。その主なアプローチは、現代集団から得られるデータを基に過去を推定するものでした。しかし、近年ゲノム解析技術の急速な発展に伴い、古人骨に残る微量なDNAからでも数百年さらには数千年前に存在していたヒトのゲノムデータを得ることが可能となりました。これは、まさに遺伝情報のタイムカプセルといえます。そして、時代及び文化の変遷に沿ってそのタイムカプセルを辿っていくことで人類集団の成り立ちを遺伝子の進化として直接観察することができます。私の研究チームでは、パレオゲノミクスのデータ解析及び新たな方法論の開発を進めています。

本研究との関連性

 パレオゲノミクスをコパン及びエルサルバトルやグアテマラにおける関連遺跡から得られる古人骨資料へと適用することで、マヤ文明の起源・発展・そして崩壊に至るまでの歴史を探っていきます。

本研究への抱負

 国際舞台で活躍する研究者の方々と一緒にマヤ文明研究の新たな分野を開拓していけることに胸が高鳴ります。ゲノムデータから何が見えてくるのかとても楽しみです。

科学研究費補助金

研究課題名:縄文人の集団ゲノミクス:古代狩猟採集民の適応進化と現代におけるその遺産の解明
課題番号 :22H02711
研究期間 :2022-04-01 – 2025-03-31
科学研究費助成事業データベースサイト (https://kaken.nii.ac.jp/grant/KAKENHI-PROJECT-22H02711/

主な著書・論文
  • Cooke et al. (2021) “Ancient genomics reveals tripartite origins of Japanese populations”, Science Advances 7(38): eabh2419.
  • Nakagome et al. (2019) “Inferring the model and onset of natural selection under varying population size from the site frequency spectrum and haplotype structure”, Proceedings of the Royal Society B 286(1896):20182541.
  • Lindo et al. (2016) “Model-based verification of hypotheses on the origin of modern Japanese revisited by Bayesian inference based on genome-wide SNP data”, Nature Communications 7(1): 1-11.

 


 

ITO Nobuyuki
伊藤 伸幸(いとう のぶゆき)
- ITO Nobuyuki -

所属:名古屋大学, 人文学研究科, 助教
研究者番号:40273205

これまでの研究概要

 1991~1994年のグァテマラ学術調査では、メソアメリカ南東部太平洋側最大の都市遺跡カミナルフユで発掘調査を実施した。この調査では埋葬人骨も多数確認された。このなかには、殺傷痕から人身犠牲にされたと推定される人骨もあった。1997~1999年に実施されたチャルチュアパ遺跡調査では、古代メソアメリカのピラミッド神殿の歴史を明らかにした。2004~2006年のタスマル遺跡とロス・ナランホス遺跡考古学調査では、研究代表者の中村誠一らとともに、古代都市成立について研究した。また、タスマル遺跡では、高位の人物と考えられる埋葬なども出土した。2017~2019に実施した科研費挑戦的研究(萌芽)『DNAを文化人類学的視点から読み解く研究』では、DNA分析の研究者とエルサルバドルの研究者とともに調査をした。その結果、エルサルバドルの先住民がメキシコ中央部からの移民である可能性を明らかにした。また、現在実施しているチャルチュアパ遺跡エル・トラピチェ地区出土のメソアメリカ最古級の日付を持つ石碑片から、古代メソアメリカにおける長期暦の伝播が非常に広範囲かつ早かったことを解明した。

本研究への抱負

 マヤ文明において独自の支配者を有する王国コパン(ホンジュラス)やティカル(グァテマラ)などの王朝とエルサルバドル西部の古代都市王国との関係をパレオゲノミックスの手法を用いて解明したい。特に、コパンはエルサルバドル西部と関係が深いとされており、建築遺構や遺物から解明される文化的交流のみでなく、ゲノム情報による人的交流も解明されることが期待される。今までに得られた人骨資料をコパン遺跡出土の埋葬などとゲノム情報を比較することにより、ヒトの移動を解明していきたい。

主な著書・論文
  • Ito, Nobuyuki “Linaje de trono en Mesoamérica: desde los olmecas hasta los mayas.” Perspectivas Latinoamericanas 18: 61-87、2022
  • 伊藤伸幸(監著)、『メソアメリカ文明ゼミナール』、勉誠出版、東京、2021.
  • Ito, Nobuyuki "La arquitectura de tierra en Mongoy y Chay, Kaminaljuyu.", en Arquitectura de Tierra Mesoamericana, editado por A. Daneels, pp.121-165, UNAM, México, D.F., 2020.電子書籍

 


 

ICHIKAWA Akira
市川 彰(いちかわ あきら)
- ICHIKAWA Akira -

所属:金沢大学, 古代文明・文化資源学研究所, 准教授
研究者番号:90721564

これまでの研究概要

 私は、メソアメリカ考古学者です。これまでの調査のほとんどは中米エルサルバドルで実施し、メソアメリカ文明史における周縁社会の特質について考えてきました。近年の研究の焦点は、人間と環境の相互作用、特に、気候変動と先スペイン期の長期にわたる火山活動に対する人間の反応や適応、気候変動と古典期社会の衰退について編年構築を通して研究することです。また、古代の建築技術や労働組織の研究にも興味があり、特に脆弱な土の建築遺産の修復・保存技術の開発に取り組んできました。その際、地域住民と協働し、持続可能な文化遺産の保存と活用のために地域における遺跡の新たな価値の創造にも取り組んでいます。

本研究との関連性

 私が主な調査地にしているエルサルバドルの諸遺跡と本研究が主に取り組むコパンは遺物の類似性から古くから交流があったと指摘されてきました。しかし、実際にどのような人々の交流があったのか、遺物の類似性からだけではわかりません。そこで、私がエルサルバドルで担当した発掘調査で出土した古人骨資料を提供し、ゲノム解析をおこないます。これによって、コパンの人々との遺伝的関係が解明され、両地域の古代社会の実態解明に迫ることができます。

本研究への抱負

 本研究が対象とする遺跡は、複数国にまたがります。しかし、古代には現在のような国境はなかったにもかかわらず、これまで各国の専門家がその国を超えて積極的に研究交流することはあまりありませんでした。今回、国を跨いて共同研究できる機会が巡ってきこともあり、マヤ文明の南東周縁地域の研究が一気に進むのではと期待しており、そのために今一度さまざまな資料を見返しながら研究の発展に貢献したいと思います。

科学研究費補助金

研究課題名:気候変動と民衆の生活変化からみるメソアメリカ古典期社会の衰退に関する学際的研究
課題番号 :21H00592
研究期間 :2021-04-01 – 2026-03-31
科学研究費助成事業データベースサイト (https://kaken.nii.ac.jp/ja/grant/KAKENHI-PROJECT-21H00592/

主な著書・論文
  • Ichikawa Akira. Human responses to the Ilopango Tierra Blanca Joven eruption: excavations at San Andrés, El Salvador. 2022. 96. 386. 372-386
  • Ichikawa Akira. Monumental Structures and Volcanic Activities: Excavating the Campana at San Andrés in the Zapotitán Valley, El Salvador. 2022. 33. 1. 135-154
  • Ichikawa, Akira. Conservación de arquitectura de tierra en San Andrés, El Salvador. Arquitectura Mesoamericana de Tierra Vol.II. 2021. 319-343
  • Ichikawa, Akira, Juan Manuel, Guerra Clara. Arquitectura de tierra en la frontera sureste Maya: San Andrés en el valle de Zapotitán, El Salvador, C.A. Arquitectura Mesoamericana de Tierra Vol.II. 2021. 213-246
  • Akira Ichikawa. Warfare in Pre-Hispanic El Salvador. Annual Papers of the Anthropological Institute. 2021. 12. 178-196

 


 

研究協力者

 

Gakuhari Takashi
覚張 隆史(がくはり たかし)
- Gakuhari Takashi -

所属:金沢大学, 古代文明・文化資源学研究所, 助教
研究者番号:70749530

これまでの研究概要

 世界各地の遺跡から出土する人骨や動物骨には、遺跡を形成した当時の人々のライフヒストリー(生き様)に関連する膨大な情報が保存されています。これらの情報を正確かつ効率的に抽出することで、過去に生存していた人々の集団内・集団間インタラクションを復元し、古代文明を形成してきた人々の社会の実像に迫ることも現実味を帯びてきました。私は2018年に世界で初めて日本の縄文時代の古人骨の全ゲノム解読を達成し、これまで見ることができなかった温暖湿潤地域における古代人のゲノム情報の抽出法を確立してきました。現在は、これらの手法をさらに改良し、超微量DNAからゲノムデータを取得するための手法の開発を試みています。

本研究との関連性

 コパン遺跡出土人骨からDNA抽出・次世代シーケンサーによるゲノムデータ取得を試みます。分析する人骨の中には現在の分析手法ではゲノムデータの取得が困難な試料も含まれていると予想されます。従来法では分析できない分析試料(難DNA分析試料)を見つけ、その試料からゲノムデータを取得できる新たな手法の開発を進めます。

本研究への抱負

 遺跡出土人骨のゲノムデータをどれだけ取得できるかによって、ゲノム解析で見えてくる景色の解像度が変わってきます。1個体でも多くゲノムデータを取得することで、マヤ文明の考古学研究でこれまで議論できなかった個人間の繋がりを可視化できればと思います。

科学研究費補助金

研究課題名:シン・パレオゲノミクスが創る博物館資料群活用の新展開
課題番号 :21H04358
研究期間 :2021-04-01 – 2024-03-31
科学研究費助成事業データベースサイト (https://kaken.nii.ac.jp/ja/grant/KAKENHI-PROJECT-21H04358/

主な著書・論文
  • Waku et al. (2022) “Complete mitochondrial genome sequencing reveals double-buried Jomon individuals excavated from the Ikawazu shell-mound site were not in a mother–child relationship”, Anthropological Science, 130(1), pp. 39-45.
  • Cooke et al. (2021) “Ancient genomics reveals tripartite origins of Japanese populations”, Science Advances 7(38): eabh2419.
  • Gakuhari et al. (2020) “Ancient Jomon genome sequence analysis sheds light on migration patterns of early East Asian populations”, Communications Biology 3(1).