研究報告(覚張隆史)- 2023.3.30
更新日:2023.3.30
本年度は金沢大学の考古科学実験室内に分子生物学実験の自動前処理装置であるベックマンコールター社のBiomek i5を設置しました。自動前処理装置の導入によって、本来は人が手動で長い時間をかけて実験をしていた工程を自動化できるため、手動での実験よりもはるかに迅速かつ正確に実験ができるようになります。この前処理装置をパレオゲノミクス研究に応用し、コパン遺跡出土人骨のパレオゲノミクス研究を加速させるための準備を進めてきました。Biomek i5にパレオゲノム解析専用のDNA自動抽出プロトコルと次世代シーケンサー用のDNAライブラリ作成プロトコルを実装し、1日で80検体のDNA抽出・DNAライブラリ作成が可能になりました。古代ゲノムデータ取得のハイスループット化に成功したので、今後はサンプリングしたコパン遺跡出土人骨から多検体のゲノムデータの取得を順次進めていきます。
ゲノムデータ取得と合わせて放射性炭素年代測定のための骨コラーゲン抽出も実施し、保存状態の良好な骨コラーゲンの抽出にも成功しています。コパン遺跡から得られる多くの個体のゲノム・年代・形態・同位体・考古学データを統合的に解析することで、遺跡出土人骨の遺伝的な繋がりについて多角的に評価することができます。この様な研究手法はまだ世界の古代文明研究においてはほとんど実践されてきませんでした。本研究のように考古学と考古科学の各研究者が真に共同研究を進めることで、次世代型考古学研究のモデル研究として成果を世に発信できればと考えています。